「丕緒の鳥」 小野 不由美 著 新潮社文庫「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる
「大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒は、
国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に
羽ばたくのだろうか―表題作ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、
一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。
(「BOOK」データベースより)
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丕緒 (ひしょ)という主人公は、いわば 工芸家で官吏の職人です。
仙籍に入って不死なので、何度もgの儀式に使う陶製の鳥は作っていますが、ある時
この儀式のあり方に疑問を感じます。
射られて割れて砕ける鳥が、一般庶民に見えたから。
そこから丕緒の苦悩がはじまります
「落照の獄」は、今でいうなら最高裁判所の 裁判官と検事と弁護人を兼ねたような職責の
瑛庚(エイコウ)と同僚二人が主人公。この国では死刑制度が実質廃止されていて、
そんな中で、26人殺し・強盗の”シュダツ”という罪人の扱いをめぐって、論議がはじまります。
肝心の王様は 死刑の復活を」含めて「司法にまかす」の一点張り。
読んでいて、難しかった。(ちょっと眠くなった^^;;)
これは、死刑について廃止か否かという論議で、現実問題で今も意見の割れているている
テーマです。(私は、死刑廃止論者ではないけれど、この間見たTV番組で、ちょっと気持ちが
揺らいでます^^;;)
裏の主人公は”シュダツ”で、改心の欠片もなく、まるで 自分が死刑になることで社会に
復習をしてるような態度。現実で、あの池田小事件の犯人を思い出しました。
主人公は、「死刑を復活する事で 濫用につながり 国が傾いていくんのではないか?」
と心配します。どうもその通りになりそう。
(十二国記の世界では、王が正しい政治を行わなければ、災害や疫病がおき、民衆が疲弊し
社会が荒れていくという設定です。その国が荒れていく入り口にきていると 主人公は
感じ、気をひきしめてます)
「青条の繭」は、ある地方のブナの病気を発見した下級役人・標仲(ヒョウチュウ)が
主人公。山を管理する彼は、友達であり同じような役職のホウコウらと、ブナが死滅していく
病気を発見(死滅したブナは 山の荒廃や土砂崩れを引き起こす)
その病気に効く薬が 青条 という植物であるのをやっとつきとめたが、栽培が難しく
見本の苗をもって、ヒョウチュウは 王様にもっていくことに
(上司に知らせても、なんの音沙汰もない)
「ファンタジーって、こんなに苦しい話だっけ?」というくらい ヒョウチュウは、王に
会いに行く旅情で苦労します。
苦労して苦労してギリギリまで頑張って、途中で倒れます。
で、問題の苗は、ヒョウチュウの情熱に推された人たちがリレーのようにまわしていきます。
この話では、役人は、まったく役にたたないどころか 害になってます。
だから、ヒョウチュウの訴えに賛同し 仲間を組んで王に奏上することもなければ
民衆に訴えることもありません。
ただ、”苗を王様も下に必ず届ける”という強い意志が、人々を動かします。
「風信」は、前の3作から比べると、ちょっとホっとするくらいライトかな。
ちょうど、陽子がこの世界に来る前後の話。
理不尽な条例で 両親を殺され家を焼かれ故郷を追われた主人公は、追われた先の
別荘地のような荘園(?)で下女をすることに。
荘園で風変わりな博士達の手伝いをしながら、いろいろ考えるのです
「青条の繭」が、読むのはつらくなるくらい過酷が話しでしたが、インパクト
ありました
「風信」は、読み易く 哀しい過去を持つ主人公だけど、前の重い3つの話を
ホっとさせてくれるような 話でした
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